「営業組織を強化して新規取引を拡大する必要があります」——多くの経営者がそう感じている。既存事業の成長が鈍化し、競合が増え、価格競争が激化する中で、営業組織のテコ入れは避けられない経営課題です。
そこで真っ先に検討されるのが、SFAの導入やAI活用による営業効率化です。実際、多くのベンダーが「営業生産性向上」「データドリブン経営」を謳い、導入事例を並べています。一見すると合理的で、前向きな意思決定に見えます。
しかし、導入後に現場から聞こえてくるのは「SFAにデータを入力する手間が増えただけ」「データを入力しているが意味があるかわからない」「以前より忙しくなったが成果が上がらない」といった声です。なぜこのようなことが起きるのか。問題は、ツールそのものではありません。営業組織を強化する前提条件が整理されないまま、ツールの導入などの対策だけが先行していることにあります。
営業強化を検討する際、多くの企業が以下のような対策に着手しています。
これらはいずれも「営業強化」として語られる代表的な施策であり、実際に多くの企業が実行しています。一見すると理にかなった判断に思えます。しかし、ここには大きな前提が欠けています。
それは、「自社の営業は、誰にどのような価値を伝えるための組織なのか」という定義が曖昧なまま、手段だけが選ばれているという点です。
組織の役割を定義しない状態で手段が選ばれた場合、何が起こるでしょうか。
たとえば、成長期の企業と成熟期の企業では、営業に求められる役割がまったく異なります。市場が拡大している段階では、「より多くの顧客に接触する」ことが成果に直結する場合もあります。この場合、営業人員を増やし訪問件数を増やす戦略は機能します。
一方、市場が飽和し競合が増えた環境では、件数ではなく「どの顧客に、どのような価値を提案するか」という戦略的な判断が求められます。この段階で人員だけを増やしても、受注単価の低下や提案品質の劣化を招くだけです。
つまり、「誰に、どのような価値を伝えるのか」が定義されていないということは、戦略が定まっていない状態で、組織を作り、動かそうとしているということです。
また、顧客の購買構造も営業設計に大きく影響します。エンタープライズ企業を相手にする場合、購買関係者が多く、意思決定には複数部署の合意が必要になります。この場合、営業の役割は「受注処理」ではなく「意思決定支援」に近くなります。顧客が抱える課題を整理し、社内の合意形成をサポートする動きが求められるのです。
一方、中小企業向けの標準商品であれば、効率的な受注処理や迅速な対応が重視されます。この場合、SFAやAIによる業務効率化は有効に機能します。
このように、営業は事業フェーズ、顧客構造、商品特性によってまったく異なる設計が必要になります。にもかかわらず、「誰に、どのような価値を伝えるのか」という前提が整理されないまま「SFAを入れる」「AIを使う」「人を増やす」という手段だけが選ばれているのが実態です。
その結果、成熟市場で人員だけを増やしても成果が出ない、エンタープライズ営業にSMB向けのプロセスを適用しても機能しない、といった構造的なミスマッチが発生するのです。
ここまで見てきたように、営業強化策が機能しない理由は「構造のズレ」にあります。
では、なぜこのズレが生まれるのでしょうか。
問題の本質は、営業手法やツールの選択ではありません。「自社の営業は、どのような前提で設計すべきか」という整理がされていないことにあります。
実は、これまで営業を強く意識しなくても成長できてきた企業ほど、この問題に陥りやすい傾向があります。市場が拡大していた時期や、独自の商品力・既存顧客基盤によって成長してきた企業は、営業組織を体系的に設計する必要性が薄かったのです。
しかし、環境が変わり「営業で勝たなければならない」状況になった時、何から手をつけるべきかが見えなくなります。その結果、ベンダーや外部コンサルタントが提示する「一般解」に飛びつき、自社の前提条件を整理しないまま対策を進めてしまう。これが、営業強化策が空回りする根本原因です。
それでは、どのように営業強化のための前提条件を整理する必要があるかを見ていきましょう。以下の図は、BtoB営業における前提条件を検討する上で必要な判断軸の一例です。
これらの要素が組み合わさることで、営業組織の最適解は大きく変化します。
たとえば、「成熟市場×エンタープライズ向け×高単価カスタマイズ型×意思決定支援」という前提条件であれば、営業担当には深い業界知識と提案力が求められ、商談期間も長期化します。この場合、単純に「訪問件数を増やせ」という指示は機能しません。
一方、「成長市場×SMB向け×低単価標準商品×受注処理」という前提条件であれば、効率的な商談管理とスピーディな対応が重視され、SFAによる進捗管理やAIによる業務効率化が有効に機能します。
もしも営業の前提条件が整理されないままSFAやAIを導入すると、どのような失敗が起きるのでしょうか。
データの入力が形骸化する——営業担当が「何のために入力するのか」を理解できず、形骸化します。マネージャーは「入力させること」が目的化し、営業活動そのものが停滞します。結果として、システムには意味のないデータだけが蓄積され、誰も見ない状態になります。
表面上の情報だけが管理される——よくあるケースとして、商談数(入口)と成約数(出口)のみが可視化され、間のプロセスが見えないという現象が起こります。その結果、「なぜ商談が進んでいないのか」「訪問件数が足りない」といった指摘だけが増えます。
しかし、営業の役割や戦略が定義されていないため、現場は「何をすれば正解なのか」がわかりません。活動量を増やすための取り組みは行われるものの、一向に成果が改善されない理由がわからないという状況に陥ります。
現場が疲弊する——業務負担が増え、本来時間をかけるべき顧客対応や提案活動に支障が出ます。結果として、営業強化どころか組織全体のパフォーマンスが低下します。優秀な営業担当ほど、この状況に違和感を覚え、離職を検討するようになります。
これらは、特定の企業や個人の問題ではありません。
前提条件が整理されていない状態で手段を導入すれば、構造的に起きる失敗なのです。
営業強化を進める際、最も重要なのは「順番」です。
第一に、営業の前提条件を整理する——自社の事業フェーズ、顧客構造、商品特性、成長ドライバーを明確にします。これは、営業組織が「何をすべきか」を考える土台となります。
第二に、営業の役割を定義する——その前提条件のもとで、営業組織は何をすべきなのか、どのような成果を求めるのかを具体化します。ここで初めて、営業プロセスや評価指標の設計が可能になります
第三に、初めてSFAやAIを検討する——定義された役割を実現するために、どのようなツールや仕組みが必要かを判断します。この段階で導入するツールは、営業活動を支援する「武器」として機能します。
この順番を守らずにツールを導入しても、営業組織は強くなりません。むしろ、現場の負担が増え、経営と現場の認識ズレが拡大するだけです。
営業強化を実行する際、以下の点にも注意が必要です。
経営と現場の認識ズレ——経営層が「営業を強化したい」と考えていても、現場が「何を変えるべきか」を理解していなければ、施策は機能しません。前提条件の整理は、経営と現場が共通認識を持つためのプロセスでもあります。経営層だけで決めるのではなく、現場を巻き込んで整理することが重要です。
「ツール導入=解決」という誤解——SFAやAIは手段であり、それ自体が営業を強くするわけではありません。ツールを活用するためには、営業の設計が先に必要です。「導入すれば何とかなる」という期待は、必ず裏切られます。
短期成果を求めすぎることのリスク——営業組織の変革には時間がかかります。短期的な成果を求めすぎると、本質的な問題が放置され、表面的な対応だけが繰り返されます。腰を据えて取り組む覚悟が必要です。
SFAやAIを導入すること自体が間違っているわけではない。問題は「順番」である。
営業の前提条件が整理されないまま、手段だけが先行すると、現場は混乱し、投資は回収されず、経営課題は解決されない。逆に、前提条件を整理し、営業の役割を定義した上でツールを導入すれば、それは組織を強くする武器になる。
今、自社の営業組織に対して「このままで本当に良いのか」という違和感を感じているのであれば、一度立ち止まり、前提条件を整理することから始めてほしい。
「自社の営業は、何をすべき組織なのか」「誰に、どのような価値を伝えるべきなのか」——この問いに明確に答えられるでしょうか。もし答えに詰まるのであれば、それが次の一歩を踏み出すべきタイミングです。
SFAやAIを導入する前に、本当に必要なのは「自社の営業組織をどう設計すべきか」という前提条件の整理です。
私たちは、マイナビ、DeNA、ユーザベースなどで営業マネジメントを経験し、300社以上の営業組織改革を支援してきました。その経験から断言できるのは、手段の前に、前提条件を整理することの重要性です。
・自社の事業フェーズ、顧客構造、商品特性の明確化 : 「誰に、どのような価値を伝えるべきか」を一緒に整理します
・営業組織に求められる役割の定義 : 現在の営業活動と、本来すべき営業活動のギャップを可視化します
・SFA/AI導入の適切なタイミングと方法の判断 : 今すぐ必要なのか、その前にすべきことがあるのか、順番を明確にします
- 営業強化の必要性は感じているが、何から手をつけるべきかわからない
- SFAやAIの導入を検討しているが、本当に今なのか迷っている
- これまで営業を強く意識せずとも成長してきたが、環境が変わってきた
- 営業対策を進めているが、現場が疲弊している
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